モノと共に生きる

BEATLESS アニメ公式
http://beatless-anime.jp/
■Analoghack Open Resource
https://www63.atwiki.jp/analoghack/

BEATLESSのアニメ放映が始まって2週。
アニメの率直な感想としては、作画面での省エネっぽさは否めない。動いていない訳ではないが、必要そうなところでコストをそこまで引き上げていないのでそう印象づけられる。省エネ作画でも楽しめる作品は幾らでも存在するが、これを作画が弱いからあかんと受け取る向きはあるだろう。まあそう思ってしまうなら仕方ない。
一方、脚本に関しては今のところ概ね良く出来ていて、地の文で幾重にも織り成し描写していく長谷せんせの文調にあって、原作から切り落とす取捨選択に大きな誤りがなくテンポが良い。何せ原作は649ページもあるので結構大胆に飛んでいたりするのだが、視聴しているとそれほど無理を感じることがなく驚いた。原作全14+1話に対し放映は24話あるので、この調子なら脚本面は心配なさそうかな? という気がする。
脚本会議にもアフレコ現場にも長谷せんせは参加しているそうだから、極度の解釈違いはないのだろうし。

ただこの脚本の取捨選択のセンスというのは、原作既読でないと比較しようがない。自分はアニメ化を「原作及びAnaloghack Open Resourceへの導入でありさえすればいい」と思っているが、未読勢はどう受け止めるだろう。脚本の良し悪しで追いかけるよりbuzzり具合でその時の覇権をどうこう言う層に多くを期待するものではないが、何らかの形で原作を手に取ったりAnaloghack Open Resourceへ踏み入る人が増えればなあと願う。
BEATLESSは入り口に過ぎず、その先が割と面白いことになっているからだ。

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BEATLESS世界の西暦2105年では、世界中にhIE(humanoid Interface Elements)という"道具"が普及している。その数は日本だけでも1000万体ということで、街中で人を10人見かけたら内1人は人間ではない。なのに見た目だけでは判断がつかない。
そんなhIEの行動は自律的ではなく、(人類を越えた知能を持つ)超高度AIの内の1体・ヒギンズが一括して担い、クラウドで制御をしている。なお人工知能に感情を入れ込むことは西暦2071年に否決されたという設定の通り、物語は最後までアンドロイドが道具であることが一貫される。
人間が頭捻ってもわからない論理で動き、感情を持たないのに持っているように見える人に見えて人でないモノが道を歩いていれば必ず見かけるレベルに存在するのは、現代人の感覚で言えばホラーそのものだろう。

この "実は危ない世界" というのはBEATLESSの外でより顕著になる。
同じ世界観を共有するSF短篇集『My Humanity』内「Hollow vision」では液状コンピュータが盗まれ、霧状コンピュータといったものまでが登場する。
またAnaloghack Open Resource活用の作例として2017年冬コミに長谷せんせが書かれた「電霊道士」では中国が舞台になっており、超高度AI・進歩八号が徳点と呼ばれるゲーミフィケーションを国民に徹底させ、その見返りとして死後に人格を高度AIとして残す…つまり超高度AIが霊界を作ってしまっている。隣の国に行ったら「あの世? 実在するんですよ」とコンピュータを指差して言われるとか、それちょっとというかだいぶ怖い。
その他Analoghack Open Resourceでの公開設定として「イギリスがメタンハイドレートを自動で集めようと超高度AI活用したら、生物系統まるごとひとつ作っちゃって中止になった」とか、「タンパク質と水を与えていればほぼ無限に大きくなる生体コンピュータ」とか、犯罪を行うための超高度AIが存在するかもだとか、ヤバい話がそこらじゅうに転がっている。

人類の尊厳も居場所さえも失われつつある世界観。驚くべきはこれを一定のルールを守ることで、二次創作フリーではなく一次創作として活用することを認める試みがもうとっくに始まっている点。自分のオリジナル作品だと言っちゃって良いということだ。BEATLESS(とスピンオフ「天動のシンギュラリティ」)ではその内の一部を、日本を中心に描いているに過ぎない。
長谷せんせ本人が作例作るだけでえらい面白いものが飛び出すので、触れる人が増えれば、ここからとんでもないものが飛び出すかも知れない可能性がある。
だからアニメを機にその先へと願っている。

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世界観の魅力とは別に、長谷作品の中で個人的にBEATLESSが最も好きである理由は、"機械に心を持たせるようなことはしない" まま人が人以外のモノを信じ続け最後にポジティブな答えがちゃんと出ているところにある。そういう関係性は大変憧れる。
人間不信が人格形成の根幹になっている自分にとって、少年期に信用出来る相手は人でなくパソコンだった。BASICプログラムやニーモニックを打ち、正しく打てばその通りに動いた。バグを引き起こしたり実行エラーが出る時は、大抵打ち込んだ人間の方が悪い。
学校に行けば非があるわけでもないのにいじめられたりもする中で信頼関係を築くのは難しく、家帰ってパソコンつっついている方がよほど安心出来た。

自分が生きている内にhIEのような存在と幸せな人生を過ごせるかってーとそれはちょっと難しそうなのが残念だが、人以外のモノをもっと信用出来る世界が少しでも早く訪れたらと思う。
人と人との関係より良い未来を選ぶことが出来るのであれば、人は人以外の知性ともっと手を取り合って生きて良い。BEATLESSはそのビジョンを示してくれたのだ。