とあるクラウドファンディングにおける一部始終と今後の課題

2022年10月1日、午前1時50分。
ひとつのKickstarter発ゲームプロジェクトの資金調達キャンペーン期間が終了した。
その名は「アームドファンタジア & ペニーブラッド」。ワイルドアームズの精神的続編とシャドウハーツの精神的続編という2つのJPRGが合同で資金調達を行うという、珍しいスタイルのプロジェクトだった。

結果だけ言えば、キックスターターキャンペーンは大成功。
用意されたストレッチゴールは全て達成され、Kickstarterビデオゲーム部門投資金額は歴代でも13位。ここ2年に限って言えば1位で、更に日本人出資割合は26.8%とずば抜けた数値を誇る。
だがその道程は決して平坦なものではなかった。プロジェクトは成功したもののKickstarterとしては課題を残している状況で、それらについて一ファンからの目線として語りたいと思う。

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■資金を集めるにはグローバル展開が必要。でも英語サイトと聞くと尻込みする
まずこれが最初の難関だ。説明などは日本語ミラーも用意されているのだが、Kickstarterアメリカのwebサイトなので実際に支援するとなると途中から表記が英語だらけになる。これだけで嫌になる人が多数出てくることは否めない。
「プレッジ」も人によっては普段あまり使わない言葉だ。

「国内にもクラウドファンディングサイトあるでしょ。そっちでいいじゃん」と言う意見が出てくるのもわかる。だが国内クラウドファンディングで海外から資金を集めるのは難しく、グローバルに多額の資金を集めるにはKickstarterが現状最も知名度が高く効果的なのだ。本プロジェクトに限らず付き合っていくしかない。


■日本語表現が若干怪しい説 & 記載漏れ & 記載誤り
Kickstarterスタッフのキャンペーン施策自体は優秀である。それは間違いない。だが、施策以外に問題が残りがちだ。
日本語表記が若干怪しいとは他プロジェクトでも言われてきている。海外スタッフが良しとする感覚で翻訳した結果が日本人にとっては違和感ありまくり…というのはクラウドファンディングに限った話ではなく、珍しい話でもない。

それだけならまだしも、そこにちょいちょいと記載漏れや記載誤りが発生し、更にKickstarterwebサイトの仕様として「プレッジ(支援)の記載内容は、誰かが支援を始めてしまうと一切表記を直せない」という仕様が絡んでくる。
間違っているのにその表記を正せないので、間違ったまま認識が進んでしまう種がずっと残ってしまうのだ。「本当は違うんですよ」ということが判明した後でも同じ質問が繰り返されてしまうことになる。
実際に繰り返され、最後の最後まで解決済の疑問を見かけた。


■2つのプロジェクトを合同で動かしたせいで返礼品の組み合わせがややこしい
本プロジェクトでは片方のゲームだけを支援することも出来たし、両方を支援することも出来た。ゲームにはデジタル版・物理版両方が用意され、ゲーム系クラウドファンディングなので開発介入系の支援もある。返礼品を多く望む人にはお得なセットコースなども用意された。
このため支援の返礼品自体が非常に多く、そしてこれらの組み合わせが大変にややこしいことになった。しかもその組み合わせ表記でもミスが起きており、質問事項が積み増されてしまう事態に繋がっている。


■これらを解決するのは誰?
英語サイトに付き合う。Kickstarter側の不備。返礼品の組み合わせのややこしさの三重苦。これを放置するとどうなるか? 誰も支援しようと思わないだろう。
だから誰かが解決しなければいけない。過去の日本発Kickstarter案件が歩んだ同じ道を、アームドファンタジア&ペニーブラッドも辿ることになる。自然発生的に、これを何とかしなければと有志が動き始めた。

不明点はとにかくKickstarter運営に聞く。本プロジェクトではアームドファンタジア国内外xペニーブラッド国内外で4つのコミュニティが存在していることになるので、どこかで解決していることが他コミュニティに届いていない可能性があった。情報の共有を行い、言語の壁はDeepl等文明の利器に頼って乗り越える。
疑問点が概ね解決されたら、わかりやすく画像や表を用意してtwitterに流し周知を図る。これが複数の有志の手により行われ、情報は更新され続けた。

公式がアップデートするたびに疑問点が増えてしまい全く落ち着かない状況というのは、体感では9/20頃まで続いていたように感じている。8/30から始まって10/1で終わるプロジェクトであるにも関わらずだ。
日本人有志の周知は続いたが、それでも全体に対する日本人の割合は16%からなかなか動かなかった。この16%というのは百英雄伝における最終日本人割合と同等で、つまりSNSでの周知が9月中頃時点では特に効力を発揮していたわけではなかった、とも言える。


■ラスト100時間の攻防と、実を結び始めた有志のフォローアップ
以下に、ラスト100時間におけるアームドファンタジア側のストレッチゴール達成状況をまとめた。

クラウドファンディングは一般的に、初日とラスト3日付近で投資額が大きく伸びるものとされている。だが残り100時間の時点で、ストレッチゴールの数としては半分しか達成されていない。それでも空気は変わりつつあった。

猛烈に日本人支援者が増え始めたのだ。
有志によるまとめ・フォローがようやく功を奏し始めたと言える。それだけでなく個別のお悩みを直接引き受ける駆け込み寺として、アームドファンタジア公式Discord鯖内に「相談室」チャンネルが開設&運用開始。twitterには「どうすればいいんだろう」と悩む人を見かけては声をかけて相談に乗る有志も存在した。
このような、有志があの手この手で心理的ハードルを下げようと努力し続けたことが、日本人割合26.8%という結果に繋がっている。

とにもかくにもおめでとう。ただ、本クラウドファンディングを通して、将来的な課題がいくつもあるな…とも感じた。


■問題解決の在り方が属人的
例えば「海外サイトなのでどう手続きを進めていいかわからない」等は、アームドファンタジアやペニーブラッド特有の問題ではない。「こうすればいいんですよ」という一定の手順で説明が可能なのだが、Kickstarterはそんなに細やかにフォローしてくれない。それが出来るなら、そもそもミラーサイトの日本語が若干怪しくなったりしない。

また、クラウドファンディングは大抵パブリッシャー未定なのでいわゆる広報宣伝部隊がない。そしてプロジェクト起案者は忙しくて手が回らないし、起案者も大抵クラウドファンディング自体初めての挑戦なので、トラブルに対するノウハウがない。
だからそのしわ寄せが全部コミュニティ側の負担になる。

前に海外クラウドファンディングサイトを使った経験があって勝手がわかっている人がいれば話は早いだろう。でもそうした人がいないコミュニティならノウハウがないのでイチから取り組まねばならないし、ノウハウがなければトラブルの事前回避だって難しい。
共通する課題があるのに対応するコミュニティはプロジェクト毎にバラバラになってしまうから、解決の在り方が属人的になる。そんなところでクラウドファンディングの成功が左右されるのは本質から外れている。
毎回コミュニティに多大な負担がかかる状況で、日本人発Kickstarterゲーム開発プロジェクトが今後大きく花開くかというと、このままでは正直厳しいだろう。


■海外クラウドファンディングサイトを利用する日本発のゲーム開発案件に今求められているのは、スムーズな支援を可能とする仲介者の存在である
長々と書いて来たが、これが結論になる。
合同で行なったことによる返礼品選択のややこしさこそ本プロジェクト特有の事情だが、逆に言えば特有のものはそれくらいしかない。表記漏れ & 表記誤りに対する疑問点の投げつけも本来コミュニティ側がすべきことではない。安心出来ないと支援出来ないから解決せざるを得ないだけだ。

百歩譲ってKickstarterがミスするのは仕方ないとしよう。しかしそのフォローアップをファン任せにする状況はどう考えてもおかしい。従って、海外クラウドファンディングを利用する日本発のゲーム開発案件に関して、共通する問題・課題へのノウハウを蓄積し、どんなプロジェクトにも横断して同じような品質でサポートを提供し、ファンが露頭に迷う前に交通整理してくれる、クラウドファンディングサイト・プロジェクト起案者・ファンコミュニティの間を取り持つ存在が必要だ。
そうすれば、"今よりはずっと" 初期段階からスムーズに支援のサポートが行えるし、日本人の出資割合は伸ばしていけるだろうし、結果的に支援総額も伸びていくことだろう。

ここまで来ると1人でどうこう出来る規模は超えている。
自分自身はこのような仲介の存在が立ち上がるのであれば参加することに意欲を示したいが、果たしてこのような数々の問題点を、日本でKickstarterに手を出したことのある人間がどれだけ認識しているのだろうか。

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アームドファンタジアもペニーブラッドもクラウドファンディングは大成功した。そこに有志の懸命な努力があったことは事実だが、本来はそんな努力がなくても安心して支援出来るのが好ましいことを知って欲しい。

日本にとってのKickstarterゲーム開発案件の未来はまだ明るくはない。明るくするには課題が山積しているのである。