Walküre vs Yami_Q_ray. ”Are you crazy? Are you Serious?"

前回記事の続き。


10/13、10/20と続けてマクロスΔ関連のアルバムが発売された。
マクロスΔにおいて、歌姫枠に採用されたキャストが歌唱を担当したシリーズ完全新曲*1はこれで44曲となった。
内訳としてはTVシリーズ向けとして制作されたのが23曲、TVシリーズでは使用されていないボーナストラック扱いが2曲。劇場版1作目「激情のワルキューレ」が3曲で、劇場版2作目「絶対LIVE!!!!!!」は16曲。なんと全体の1/3が「絶対LIVE!!!!!!」だけで占められている。毎度歌にはかなりの力を入れるマクロスシリーズであるが、今回は特に力を入れていることがこの比率からもわかる。

その中で特に注目したいのが、"闇キューレ" の3曲。
設定としてはシャロン・アップル型AIの後継「セイレーン」が、ワルキューレディープラーニングして「ダークサイドな星の謡い手」を誕生させようとした…といったところで、この3曲はマクロスΔとしての歌曲の幅広さを更に補強しただけでなく、今後のマクロスシリーズに影響を与えかねないほどの可能性を秘めている。こういう曲がマクロスにあってもいい、という具体例を示しているからだ。
味方サイドと全く同じキャストを採用しながら曲や歌詞は方向性が完全に異質で、でもキャストが同じなので歌唱レベルは当然高いというのはマクロスシリーズでは今まであまり例がない。

歌詞には破壊・破滅・狂気・絶望・欲望やらの物騒なワードが立ち並ぶ。
闇堕ちではなく別キャラ扱いなのだが、歌い手がそのままなので頭はこれをワルキューレと認識しようとする混乱が心地よい。「Glow in the dark」「Diva in Abyss」はギターやドラムの攻めっぷりが非常に強く、ワルキューレ歌曲のそれすらも超える力強さを叩きつけてくる。JUNNA曰く「レコーディングこそ楽しかったが人間が歌う歌じゃない」とのことであるが、演奏も大概と言って良い。
ライブではこれを生演奏する気だろうか。
 
闇キューレ最後の曲であると同時にΔ新曲群44曲の(今のところの)最後となる「綺麗な花には毒がある」については、作詞西直紀・作編曲コモリタミノルという点が見逃せない。
フレイアがワルキューレに出会い、命果てるまで歌い続けたという流れをマクロスΔのメインストーリーラインとするならば「絶対LIVE!!!!!!」は確実に節目に位置しており、最後とは言わないまでもひとつの終わりであることには違いない。そこにΔ歌曲群一番最初の曲「いけないボーダーライン」制作陣と全く同じ面子で揃えて締めくくろうとする構成には声が出た。

そう、6年近い前の年末。初めて「いけないボーダーライン」を聴いた時の衝撃。
現代の王道ではない変化球を新作の看板曲として堂々投入するのかという困惑と共に、惹き込まれざるを得ない異様な歌唱力。その始まりを締めくくるには同程度の変化球では物足りない。だから一層、びっくりするほど癖の強い歌詞を。中毒性の高いリズムと捻りに捻った変化球を。そして6年分の成長した歌唱力を。
高音から低音まで縦横無尽に飛び跳ねる曲調は今の5人でないと歌えない。特にJUNNAは元から高かった歌唱力が更に伸びており、6年前でこれは歌えなかっただろう。歌唱力が伸びると荒削りな時の魅力が失われがちだが、その辺りは「初期の美雲の癖を残すように」とのディレクションがあったそうだ。確かな美雲らしさと同居するパワーアップした歌唱力のミックスに「成長したなぁ」と感じると共に、それを感じるだけの期間マクロスΔが続いてくれたのだという感慨も同時に覚える。

マクロスシリーズはいずれ次回作にそのバトンを渡すこととなる。その時、極限の歌唱力とこの超変化球歌曲群は後継にどのような影響を与えるだろう。これはシリーズのど真ん中を貫いたマクロスFの時には感じられなかった "今後への期待" だ。

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マクロスΔTVシリーズが要素過多をうまく整理出来ずに2クール目で少々グダってしまっている。この点についてはフォローのしようがない。そのグダってしまった部分をひとまずオミットしてわかりやすくまとめたのが「激情のワルキューレ」なら、「絶対LIVE!!!!!!」が目指したのはオミットされた部分の再構成と決着と言えるだろう。
シャロン・アップルの後継AIを登場させ全く別の姿で複数のバーチャルアイドルを同時に作り出し「歌は兵器なのか」という部分を強調してくる展開は、マクロスΔが当初狙ったマクロス7マクロスプラスの掛け合わせそのもの。
フレイアが寿命30年のウィンダミア人である設定も元から存在する。フレイアは長くは生きられないし、歌で命を燃やすと死が迫る。そこに「70過ぎても天才ぶりを遺憾なく発揮して無双する」マクシミリアン・ジーナスを配置することで、命の在り方を印象づける対比。
最後までぼやかしたままだった「レディ・M」についても、全てでこそないが正体と目的が明かされる。

要は料理の仕方があまり良くなかった。それを最終的にオミットではなく昇華させたという意味で、「絶対LIVE!!!!!!」はマクロスΔの完成形と言えるものになったのだと思う。
ちょっと? 変わってて癖があるけど力強さは桁外れ。そんなワルキューレを信じ続けて、本当に良かったと思う。そんなことを感じさせる劇場版関連アルバム2枚だった。

*1:ハインツ担当はメロディー・チューバック氏なのでここではカウントしていない。星間飛行など過去作の曲も除外。